この世でハッピーに生きるコツ

Tips for living happily in this world

さいたま地裁 無期懲役判決|散弾銃立てこもり医師殺害事件

www3.nhk.or.jp

www.yomiuri.co.jp

ja.wikipedia.org

 

事件番号
 令和4(わ)626

事件名
 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂、傷害

裁判年月日
 令和5年12月12日

裁判所名・部
さいたま地方裁判所  第5刑事部

全文

 

主 文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中360日をその刑に算入する。
さいたま地方検察庁で保管中の猟銃2丁(令和4年さいたま領第9
30号符号1及び2)及び催涙スプレー1本(令和4年さいたま領第
930号符号6-1)を没収する。 

 

以下、Copilotによる全文の概要。

犯行に至る経緯

被告人は、自身の母親(A)の介護をしていました。Aは、C医師が運営する在宅クリニックで医療を受けていました。Aの死後、被告人はC医師に対し、蘇生措置を求めましたが、C医師はこれを断りました。その後、被告人はC医師とクリニックのスタッフに対し恨みを抱き、「断ずる」旨のメモを作成しました。さらに、被告人は銃を準備し、C医師らが訪問した際には、再度蘇生措置を求めましたが、これも断られました。その後、被告人はC医師と対峙しました。以上の経緯が、被告人の犯行に至った背景となります。

 

罪となるべき事実

被告人は、以下の罪を犯したとされています。

  1. C医師の殺害:被告人は、C医師が状態が悪化したAのところに直ちにかけつけなかったことなどに一方的に恨みを募らせ、レミントンで弾丸1発を発射し、C医師の胸部に命中させて殺害しました。

  2. 理学療法士Iへの傷害:被告人は、IがAのリハビリを担当していたが、その頃歩行訓練を行わなかったことなどのせいでAが死亡したと一方的に恨みを募らせ、レミントンで弾丸1発を発射し、Iの右側腹部に命中させました。しかし、Iは肝損傷、横行結腸損傷、胆のう損傷及び多発肋骨骨折の傷害を負いましたが、命に別状はありませんでした。

  3. 医療相談員Bへの傷害:被告人は、Bが被告人が持っていたレミントンを押さえつけるなどしてきたため、これを取り返そうと考え、Bの顔面に催涙スプレーを吹きかける暴行を加え、Bに全治まで約2週間を要する両点状表層角膜症、両化膿性結膜炎の傷害を負わせました。

  4. 医療相談員Uへの未遂殺人:被告人は、Uの相談対応が良くなかったことなどに一方的に恨みを募らせ、ベレッタで弾丸1発を発射しましたが、Uは危険を感じて身をかがめるなどしたため、弾丸はUを命中せず、殺害の目的を遂げませんでした。

以上が、被告人が犯したとされる罪の概要です。

 

争点に対する判断

C医師への発射:被告人はC医師に対して銃を発射しました。被告人はC医師の胸部に向けて銃を構え、至近距離から発射したとされています。この行為はC医師をほぼ確実に死亡させる危険な行為であり、殺意に基づくものと判断されています。

被告人はC医師が帰ろうとしたときに頭に血が上り、C医師の右膝周辺を狙って発射したと主張していますが、この主張は採用されていません。その理由として、被告人が述べるような姿勢を取るのが不自然であること、被告人以外の者はモデルガンを持ち出したと思っていたので、被告人が銃身が見えないようにして構える必要がないこと、発射前の音声を聞いても、被告人が述べるような動きをうかがわせる音声も、それをするための十分な時間もないことなどが挙げられています。

 

理学療法士Iへの発射被告人はIに対して発射しました。この発射は、C医師への発射(第1事件)の直後、約4秒後に行われました。そのため、被告人の構えなどを見た者はいませんでした。

しかし、IがC医師の右側の背後付近に立ち、C医師の方に体を向けていたこと、そしてIと被告人との距離がかなり近かったことが認められています。

被告人はIがどこにいるか分からなかったと供述していますが、C医師のすぐ近くにIが立っていたことは明らかであり、被告人はC医師が倒れていたのも分かっていたので、Iが視界に入らないはずはないとされています。

 

第1事件の発射からわずか4秒後に第2事件の発射が行われていることから、第1事件と同様の意図の下に行われたと考えられています。

 

事前のメモ等について

この部分は、被告人が事前に作成したメモとその意図についての裁判所の判断を述べています。

  • 被告人は、1月27日に3枚のメモを作成しました。1枚目のメモでは、「40度の熱があることを報告していたにもかかわらずそれを、無視し、見殺しにした」などと記述し、「母はCDrに殺されたのも同様である。よって断じる!」と結論付けています。

  • 2枚目のメモでは、U、M、Iを名指し、「リハビリに関しては頑張れば歩けるように元気に母がなったものをそれをやろうともせず」「Uにおいては対応が母の傷害(障害)となっていた。」と記述し、「3名のせいで死んだも同ぜんである」と結論付け、「3名も断ずる」と記述しています。

  • 3枚目のメモでは、「自害することにする。私は万死に値する人間である。」と自害の意図を示しています。

  • これらのメモは、Aが死亡した後で、C医師、U、M及びIに対する不満から恨みを募らせる過程で書かれたものと推測されています。これらのメモは、これらの者への強い害意を示しているとされています。

 

立てこもり時の被告人の発言

この部分は、被告人が説得交渉官との電話で述べた内容と、その後の行動についての裁判所の判断を述べています。

  • 被告人は説得交渉官との電話で、「母と同じあの世に行くのが目的」、「どうせ死ぬなら、道連れにするつもりだった」と述べています。また、「女性と眼鏡をかけた背の高い男の子(Bを指す)以外は全部撃つつもりだった」とも述べています。

  • 被告人は1月28日午前4時頃に睡眠薬を飲んだと推認されていますが、その前の発言には睡眠薬の影響はなく、自然な会話の流れの中で話した内容と評価されています。

  • 被告人は、弾を1発装填して第1事件の発射をした後、その発射により大騒ぎになった部屋を鎮めるため天井に向け発射しようとしたと主張しています。しかし、その主張は採用されていません。

  • 以上によれば、第1事件でC医師に対する殺意があることが認められ、その直後に発生した第2事件においてもIに対する殺意があったと認められています。したがって、第2事件の誤射の主張も採用できず、発射罪の成立も認められています。

この部分は、被告人がUに対して行った発射行為(第4事件)についての裁判所の判断を述べています。

  • Uは、第2事件の発砲後、被告人方前の路上で倒れたIや、Iを介抱するKに声をかけました。その後、被告人がベレッタをUに向けて構えているのを見て、「やめろ」と叫びながら反転してしゃがみ、ほぼ同時に発砲されました。

  • Uの供述は、110番通報の録音音声やボイスレコーダーの音声と整合します。また、Uは事件後さほど時間が経っていない時期に被告人方前路上で自身の位置や被告人の場所について確認し再現する捜査に立ち会っています。

  • 被告人は、Uが被告人方西側市道の中央から被告人方に進んできたため、Uの右側を狙い威嚇のために当たらないようにベレッタで散弾を発射したと主張しています。しかし、この主張は採用されていません。

  • 以上によれば、Uに対するベレッタでの発射行為はUを殺害する危険が高い行為であり、散弾を発射した被告人に殺意があったことが強く推認されます。 

結論

被告人にはC医師、I、そしてUに対する殺意があったと認められています。

Uに対する発射行為は危険であったとも認められています。

したがって、C医師に対する殺人罪、I及びUに対する各殺人未遂罪の成立が認められています。

さらに、Iに対する発射は誤射ではなかったと認められているため、Iに対する発射罪の成立も認められています。

 

量刑の理由

裁判所は、被告人を無期懲役に処するのが相当と認めました。

犯行の態様が極めて危険で悪質であるとされています。

  • C医師に対しては、被告人がレミントンで大型獣の狩猟等に用いられるスラッグ弾を胸の辺りに銃身を向けて発射しました。
  • 理学療法士Iに対しては、同医師が倒れたのに気を奪われていたIに対し、至近距離から腹部辺りに銃身を向けて発射しました。
  • これらの行為は、生命侵害の危険性が極めて高く、強固な殺意に基づく冷酷な犯行とされています。
  • Uに対しては、被告人が掃き出し窓から5メートル余りの距離にいるUに対し、狙いを定めてベレッタで散弾銃を発射しました。これも極めて危険な態様であったとされています。

 

計画性等について

この部分は、被告人の犯行の計画性についての裁判所の判断を述べています。

  • 被告人はC医師、I、M、Uら7名に対して線香をあげに来るように求め、その結果、彼らは犯行日の午後9時に訪問することとなりました。
  • 被告人は、Aが死んだのはC医師が母を見殺しにしたせいであるという恨みを募らせ、「断ずる」旨のメモを作成しました。また、I、M、Uの3名に対しても、母のことに対する対応が不十分であったとして恨みを募らせ、「3名も断ずる」旨のメモを作成しました。
  • 被告人は、レミントン、ベレッタ、弾丸を6畳洋間付近に準備し、1月27日午後4時30分頃に銃砲店に対して水平2連の散弾銃(ベレッタ)で強い弾を発射することができるかを問い合わせました。
  • これらの行動から、被告人はC医師、I、M、Uの殺害を計画していたとされています。
  • この計画は、線香をあげに来た者の動きを細かく予想するなどの周到かつ綿密な計画ではなかったものの、4名を殺害するために必要な猟銃や弾丸等が準備されており、犯行前には全員に6畳洋間に入るよう促して実行していたため、高い計画性があったとされています。

 

結果の重大性等

この部分は、被告人の犯行の結果とその重大性についての裁判所の判断を述べています。

  • 被告人はC医師を即死させました。C医師は地域医療の水準を上げようと尽力し、職員や患者から信頼され慕われていました。そのC医師が自らが診療に関わっていた患者の家族の凶弾で殺されたことの無念さは察するに余りあります。
  • 理学療法士Iはスラッグ弾が身体を貫通した結果、重傷を負い、胆のうの全摘出を伴う手術を受け、事件から約1年経過した後にも腹壁瘢痕ヘルニアの治療のために自身の足の筋膜を腹部に移植する手術も受けました。Iは、銃撃により瀕死の重傷を負って、死の恐怖を感じ、悲痛な叫び声をあげ、死線をさまよっていました。
  • Bに対する傷害は、予想外にBがレミントンを両手で押さえつけるなどしたのに対し、さらに同銃でUらを殺害するために取り返そうとする過程で、催涙スプレーをBの顔面に吹きかけたというものであり、酌むべき要素はないとされています。
  • 小学校等が付近にある住宅街の個人宅内で猟銃2丁が使用されて散弾を含む3発の弾丸が発射され、その1発が付近の住宅の門扉等に着弾し、その後に現場に立てこもるなどした本件は、近隣住民に多大な恐怖を与えただけでなく、多数の者が在宅での介護サービス等を受け、医療機関側も日常的に少人数で逃げ場のない場所でのサービスに努めている現状において、死に直面した高齢者の家族が逆恨みで凶行に及んだというもので、医療関係者等に及ぼす悪影響も懸念されています。
  • 一方、被告人は、猛省などと口にするが、公判においても、30年以上前にテレビで見ただけの医学的根拠のない72時間の蘇生論にこだわり続け、蘇生措置をしなかったC医師、被告人の要求に応じなかったI、M及びUに非があるかのような自論を繰り返し述べ、自らの不合理な弁解に終始しているといわざるを得ないとされています。反省以前に未だ自らの凶行について振り返ることができていないとされています。また、被害者やその遺族に対して何らの慰謝の措置も講じていないとされています。

 

量刑の検討

この部分は、被告人に対する量刑(判決)の検討を述べています。

  • 裁判所は、検察官が指摘する単独で、凶器を用いて、殺人等に及んだ事案の量刑傾向と、銃器を用いて1名の者が殺害された単独犯の量刑傾向を参照しました。
  • 裁判所は、被告人の犯行の動機や計画性、猟銃を発射したという犯行態様の危険性・残忍さ、遺族の感情、本件の社会的影響等を考慮しました。
  • 裁判所は、被害者が1名にとどまり、検察官が無期懲役の求刑にとどめている本件において、死刑を選択することが真にやむを得ないものというには躊躇を覚えました。
  • その結果、裁判所は、被告人を無期懲役に処し、今後生涯をかけて被告人に自己の凶行を振り返らせ、贖罪をさせるのが相当と認めました。

 

(求刑 無期懲役、猟銃2丁及び催涙スプレー1本の没収、弁護人の科刑意見 懲
役15年、猟銃2丁及び催涙スプレー1本の没収)

番号 銃種   型式    銃番号       商品名
1  散弾銃  単身自動  1239552V  レミントン
2  散弾銃  水平二連  C49420    ベレッタ